上海1986/たりぽん(大理 奔)
僕の消えていく闇の名前
石炭ボイラーの匂い
江浦路の路面電車が踏みつける
レールの間で腐っていく瓜(うり)の皮
入り口だらけの逃げ場所
擦り切れた人民幣
二十五元五角の片道切符
架線の短絡火花(ショートスパーク)
照らし出される視線
水銀灯の青白い体温
レールの間で腐っていく瓜(うり)の皮
タクシーの後部座席の
破れた隙間
古ぼけた回転扉の軸受け
砕かれた日々
僕の消えていく闇の名前
石炭ボイラーの蒸気
魔法瓶の開水の温度
霧になり街に満ちて
すべて
だからみえない
戻る 編 削 Point(8)