物想い/水無瀬 咲耶
 
草青む高原で
遠い夢を見たのは 
いつの日か

やわらかな草笛
空は蒼く潤み 
細い雲がたなびく

しとやかな花の薫り
ほろ苦い草の汁
水色の風のごと
憧れが通りすぎてゆくのを
幾度 見てきたことだろう

ビロードのように紅く
素敵な薔薇の花びら
白百合みたく純潔な天使
黄金色したライオン
かさかさ頁を繰りだしても
昔の友達は もう
なぐさめてはくれない

もはや そこはかとない
遥かな想い出ばかりが
ひかりのなかで 風にゆられ
淡くまばゆく輝く季節
未だ孤独のさめやらぬ
うららかなしびれのなかで
哀しい人の 名を呼んだ





  
戻る   Point(1)