扉の物語/アンテ
(喪失の物語)
その扉は森の奥にひっそりと立っていて
街からの道は途絶えて久しく
彼女がその扉を見つけたのもほんの偶然だった
扉は立派な縁と重い板だけで壁もなにもなく
開けると向こう側が見えるだけだった
持ち帰るには大きすぎ
なにより場所を移すと大切なものが損なわれてしまいそうで
彼女は扉のことを内緒にして
ごく普通の扉がついた小さな家に住み
街の片隅に確保した居場所のなかで毎日を暮らした
日々はあまりに忙しなく
なにかに無性に腹を立てたり
行き場のないやるせなさを胸に溜め込むたび
彼女は気が
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