ノート(たからばこ)/木立 悟
棚から落ちて
壊れた箱から
ころがりいでた
あねといもうと
今日は何をして遊ぼうか
ことのほか色を見たいのに
絵の具はどれも薄れてしまった
むらさきになるまでたたこうか
あおくなるまでつねろうか
あかくなるまでなでようか
ころがる姿も見えにくくなり
音もだんだんかすれゆき
でもあそこにピアノが双つあります
こちらがそちらより壊れています
そのままに響いてくれるでしょう
かけらの文字がひとつずつ揺れ
光の射さない中庭に向かい
壊れた器の音にあわせて
壊れたうたを歌いはじめる
畳をむしる西日を浴びて
箱はふたたびひとつにもどる
底に描かれた一枚の絵
仲むつまじい姉妹の姿
誰もいない部屋のなかで
明日も遊ぶ あねといもうと
何も動かぬ部屋のなかで
明日も砕ける あねといもうと
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