温泉にて、お月見/広川 孝治
の美しさは変わらぬものなのだろう、人の世は移り変わるが・・
などと陳腐な感慨に浸ろうとしていて、ふと気づいた。
芭蕉の見た月も、現代人が見る月と同じ美しさなのだろうか?
思い出したのは、谷崎潤一郎の「陰影礼賛」である。
彼は金箔などがあしらわれた漆器の美しさは、ぼんやりとした薄明かりで初めて発揮されると主張した。それらが登場した当時の日本の明かりは、電灯などがなく、蝋燭や行灯の火のような細々としてゆらめくものであり、それらの明かりの中で本来の美しさを見せるというのだ。現代の闇を放逐することに成功したかに思える都会の明かりの中では、金などは露骨で下品に映っ
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