蛸。/仲本いすら
 
「やい、蛸」元宮のこの一声で蛸は目覚めた。
不機嫌そうに目を開き、黄色い眼球をぎょろぎょろと動かしたあと、「なんだ、お前は。」そう言った。
元宮は静かに包丁と白い綿布を取り出し、綿布を蛸にかぶせ包丁を振り上げる。
「堪忍」ただ一言そう言うと、蛸の柔軟なその茶色い足めがけて振るう。
分離したその一本の足は、今もまだ奇妙に動きを保ち蛸はその自分の足をまじまじと見つめ「なんと言う無礼な奴だ」不機嫌そうに、また言った。

「やい、蛸」元宮は千切れた蛸の足を掴みまたそう言う。
「やい、蛸。私は蛸と言う食べ物がとても好物だ。だが、しかしだな。蛸と言う生き物はこの世で一番嫌いなんだ。」
元宮の言
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