夏風邪/光冨郁也
わたしは失業し、夏を迎えた。記録的な真夏日が続いている。ここしばらく風邪をひいていた。咳が出る。寒気がする。頭の中に響く女の声は聞こえなくなっていた。冷蔵庫が空になったので、久しぶりにアパートから外へ出た。いつも通う空き地の車は知らないうちに撤去されていた。薬を飲むが、いつまでも治らない。午前中はベッドで過ごし、昼空腹になると外出した。浜辺を歩いていたら、どこかで神話の本をなくしたことに気づいた。あの本には思い入れがあったのに。図書館、マンガ喫茶、アパートの道のり、いつもの浜辺をさまよった。読むべき本を
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