やめない/石川和広
 


帰るから
もう帰るから
といいながら
帰らないでいる
ひとりの男
夕陽眺めて


空は大きい
空は小さい
どちらだろう
飛行機がきりとる空
ロッカーから見ている





彼は深く沈んでいるが
必ず空はやってきて
ひとみの奥を貫く

今日は
いい空だ
薄い雲が
ビルをだきしめている
小さな窓に切り取られるけれど
仕事をやめた男の眼には
薄暗い空が
体に染み込んでいくように感じる

けして
後悔がないわけではない
透き通った気持ちでもない
だから
こんな時は
空だけを残して

生きるのが疲れた
なのに続いていく
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