少年詩人/水無瀬 咲耶
灰色にくすんだ町で
お前は生まれた
まだ肌寒い早春
せわしく走る 野ねずみの
存在のように
ひっそり生まれた
野原の真白な花も
あでやかな 垣根の緋薔薇も
お前の瞳を待ち焦がれ
澄んだ泉の水のごと
唇からあふれる
その言葉を待っていたのだ
れんげ畠や緑の原っぱ
清らかな小川の浅瀬に寝転んで
うっとりするほど深遠な
時をもてあそんでいた
無垢のこころは やがて
大地の音色を刻んでゆく
意識は夢嵐のなかで
立ち尽くしていた
幾度も詩人の神は
お前を訪れたのだよ
いま、また そうやって
虚空を見つめ上げている
邪気の無い瞳で。
幾度も町の
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