富の物語/アンテ
仕掛けや迷路を解く方法を忘れてしまい
傷つきながらも満身創痍ですべてを乗り越え
ようやく金庫にたどり着いた
ところがかんじんの鍵が見あたらず
開け方も思い出せなかったので
無理やり錠を解こうとして
更に全身に傷を負い
挙げ句の果てに錠を壊してしまった
もとの金庫職人は腕を潰したせいで役に立たず
手当たり次第職人を呼び寄せたが
だれも解くことはできなかった
そうするうちに手元の蓄えは目減りして
身体の傷はますます悪化して肉や骨を蝕み
毒が身体じゅうに回って
いよいよ命もあと僅かとなった
せめて金庫をだれにも渡さないように
庭に埋めてしまおうと身体に鞭打って穴を掘ると
古い金庫が地中から見つかった
その錠もやっぱり壊れていたが
朽ちているせいで蓋が容易に開き
中から少なからぬ金品が姿を見せた
彼女は腹をかかえて笑い
激痛に身をよじらせて
涙を流して
それでも笑いつづけた
穴の底から見あげた空はとても遠く
彼女はたくさんのことを想い
傷つけた人たちのことを想った
手を伸ばしても届かなかった
どこにも届かなかった
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