富の物語/アンテ
 

                                 (喪失の物語)


彼女は朝から晩まで身を粉にして働き
一生食べて暮らせるだけの蓄えを得た
そこでだれにも奪われないように
大金を払って強固な金庫を手に入れた
ひとたび扉を閉じると
複雑な錠を決まった順序と時間で解かなければ
その者を傷つけるようになっていて
人を雇って実験をくり返し
だれも開けられないという確証を得た
錠を解く鍵を複製されては元も子もないので
金庫職人の両腕を相応の額で買い取り
二度と鍵を作れないよう潰してしまった
しばらくは平穏な日々が続いたが
次第に不安がつのり
彼女は更に
[次のページ]
[グループ]
戻る   Point(1)