靴の底、水性の声/霜天
 
あの人は
そこが好きだと言っていた




いつも夏には水性で
書き残す言葉から消えていくものばかりで
うっすらと昇る、煙
焼けている靴の底から
縮んでいく
人たちは


確かめるために抱いた肩
そこからの、体温は
きっと、どこよりも遠い


長い坂道を下りきった後
何本にも迷いながら分かれていく道の根元で
右と左で、また明日、を使い分けながら別れる
帰り道はいつだって滞っていたし
角を折れれば滑るように落ちていった
間違えればどこにも届かない声
一つ目の角で振り返れば
あなたの溶けた後が水溜りになって
どこまでも続いている
それを見なかった
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