無い/渡邉建志
 
の中を歩いた。有るにはあなたが見えなかった。有るはまるで一人で歩いているようだった。なぜなら無いは自然そのものだったからだ。あなたが世界なのに、あなたがいなくなれば、それ(世界)はわたしにとって、世界だっただろうか。あなたは木。あなたは森。あなたは水。あなたは空気。あなたは花。あなたは全て。あなたの前にして、わたしは無かった。そしていまもわたしは無い。ときどき赤い蝶々を見る。それが、無いをしてこれを書かしめる。断片。あなたの、断片たち。あなたが消えた後の世界に浮かぶ、あなたの断片たち。あなたが「それぞれの道」を行こうというのなら、わたしはわたしをあの分岐点において幽霊として今を生きる。わたしは無い。あなたのいない世界にわたしは無い。
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