ミッドナイトウェイ/佐々木。
 
誰もいない部屋に帰るのは大して悲しいことではないが、
誰も帰ってきてくれない部屋に帰るというのは憂欝だ。

マンションのエントランスホールのドアに手を触れる。
誰にも気付かれない息がもれた。
細く短く冷たく泣く。一瞬だけ。

僕は身を翻し、夜の散歩に出かける。
まだ明かりのついた家は多いのに、
どれも僕には関わりのない光。

通り過ぎていく車が、
ベルトコンベアに乗って運ばれていくダンボールに見える。
乗っている人たちは、
ダンボール箱に詰められた品物のよう。

やがて誰も姿を見せなくなり、家庭の明かりも消える。
もう、僕しか歩いている人はいないのに、
まだついている明かりがある。
休めない人々を慰める光だ。

深夜。無条件の優しさ。



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