無数の。/なを
 
ねこや青空や荒野を
ねこや青空や荒野と
なづけたひとにあなたのなまえを
なづけなおしてもらいにゆくのなら
てぶらで部屋を出て
ふいにバスをとちゅうで降りる
もう二度と帰らない旅行へ出かけることができる

(そしてそのなまえをわたしだけの秘密にする)

ときどきとりだして
それから詩を書く
わたしだけのあなたのなまえでよごれた
紙ナプキンに
詩を書いてそっとみせる
わたしは
あなたに



ここは地下鉄の3番出口を出たところ
ここから1000万光年歩いてもわたしの部屋には帰れない
不思議なことはなにもない

(いずれの場所もわたしの部屋ではなかっただけのこと)

かつてわたしのいたあの部屋
ながい旅行のはじまりの部屋をなつかしく思い出して
うつくしいみどりが
あふれる
往来にあふれる
無数のあなたを呼ぶ
だれも知らないあなたのなまえで
無数のあなたのうちでだれひとりふりかえらないあなたに
無数の
ねこであり青空であり荒野である
あなたに

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