おっぱい/いとう
 

め尽くされているが、屈折する光によってそ
の姿を上手く見ることはできない。ただ、魚
がおっぱいに近寄ることはない。

ナイフを使ってひとつ、毟り取ると、乳首か
ら粘り気のある汁を流す。ひとしきり流すと
すぐに萎んで瞬く間に原型を留めなくなる。
どこか音を出す器官でもあるのかと探すが、
何も見当たらない。地元の人に聞くとわから
ないと言う。「汁は、かぶれるよ」と、地元
の人はとても嫌な顔をする。

深夜、暗闇の中でふいに灯りを照らすと、乳
首の先端からテトラポットに張り付いている
根元までぱっくりと裂け、細かい牙が繊毛の
ように蠢いている、ような気がした。目をこ
すり、もう一度見ると、おっぱいはおっぱい
のままで、そよとも動かない。じっと見つめ
るが、まったく動かず、どこか遠くを見てい
るような気配をさせて、、、

夜が、止まっている。
水平線に、光はない。


戻る   Point(8)