月/葉leaf
 
 月が盲目であることを知るのに私は二十年の歳月を要した。私にとって、月はあらゆる意味で眼であった。月から伸びる湿った神経束は世界の絶望へと接続していて、世界の絶望は、半ば狂いながら老犬の飢えと私の衰弱を表象していた。月の満ち欠けは死にゆくものの投げやりなまばたきであったし、月の光は眼球を覆ううすい涙の膜であった。月の表面のねじれた模様は、人々の恐怖の片鱗を構造化したものであった。
 月は私たちの錯誤を引き起こす根源のようなものである。根源で湧出する豊かな濁った誠意である。例えば母親が他人の子と間違えて自分の子を殺すとき、月は無垢な微笑をたたえて磁界を歪ませている。例えば科学者が「真理」を発見して
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