楓(かえで)/こしごえ
空から音も無く降る雪の
つもる速度のいじらしい熱
ちょっとまえの流星は
乾燥した鋭い声で失礼のないように
(絶望はできない。
と軌跡をのこし消えていった
このとき雪はしゃららららん
といったふうに流れていた
雪明りにふちどられた
老人の青白い輪郭が
パチ パチ
と瞬(まばた)きをしてから
冬眠している翼手で手招きをしている
私は無音(むおん)に根をはりめぐらせて
翼果に声を託して今
。赤赤と風へ還る)
これ以上これ以下でもない
からだは無言するしかなくて
世界の前で掌をさらす
顔だけは変に歪んで無表情に笑っている
かなしい
とかなくってただお前は
無表情に笑い
山羊が宙を見つめている
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