弱虫魔法使い/和泉 誠
 
貸す暇もない。与えられた進路に向かって真っ直ぐに突き動かされていた。
「はあ、魔法が使えたらなぁ。そしたらこんな気持ち、二度と味わわなくていいのに」
彼は一冊の分厚い本をマントの下から取り出した。ペラペラとページをめくって、それから一言だけ、
「ちぇっ」
とだけもらしてまた本を閉じた。
開かれたページには写真がはさまっていた。とても美しい人ではあったが恋人と言うにはあまりに年が離れていた。髪は亜麻色でウェーブがかっていて、白い羽のついた大きな帽子をかぶっていた。その笑顔はまぶしく、ほころびた目元には優しさが満ちていた。まるで貴族を思わせるような気品があり、そしてまたどこかはかなげであった。


戻る   Point(0)