グラスを見つめるように/馬場 こういち
ひさしぶりに見た横顔は
新宿のそれとよく似ていた
声に出さずとも
互いの過去ならよく知ってる
「あのころ」なんて言うその眼は
あのころとはもうだいぶ違う色をしてる
いつも遠くを見てた
足元なんて見てなかった
グラスを見つめるお前の眼は
あのころよりずっと深いところを見てる
言わなくても分かる
胸の奥でなにかがざわめく
あれからどんなことがあったのか
マティーニを注いだグラスのような瞳で
今夜はしずかに飲もう
あのころの話なんかしながら
「若い」って言葉は好きじゃないが
あのころは空を飛べるほど若かったのさ
南口にはいつのまにか
あんな大きなビルが建ってる
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