死んでたかも。/仲本いすら
 

僕は今日 すこしの間だけ死んでいた気がする

 現代文の説明文を 担任が、眠たくなる甘い声で
 まるでどこかの呪文のように話しはじめて
 ネクロノミコン アブラカタブラ エッサイム
 もう、呪文にしか聞こえない

僕は今日 確実に少しの間死んでいた気がするのだ

 第三段落の終わりを説明してるころには
 すでに僕は突っ伏していて
 その頃にはもう第五段落の
 深層心理の話に達してたみたいだった


 糞尿や
 後悔や
 内臓や
 偶像が
 
 腰らへんから、ずるずると
 本当に、音がするかと思うくらい
 ずるずる、ずるずると
 這い出ていくのを感じて

 ある種の
 人間の暖かさも

 ある種の
 人間の恐怖さえも

その時 僕は確実に数分の間死んでいたと思うんだ

 すべてが出きったのを確認して
 どこから沸いたのか、
 土佐犬がその僕のぬけがらを食べにきたところで

 目は覚めたんだったと思う

その時 たしかに数分、死んでいたみたいだった

 妙に、授業から人肌を 感じた。


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