眠れる森の/蒸発王
 
識を取り戻しそうだという

“妻”は条例に従って

廃棄処分に



妻は
本人が目覚めるまでの『代り』
目覚めた彼女はもう妻ではない




封筒を握りつぶしたドアの向こうで
妻が作る肉じゃがの匂いがする
表札に並んだ二人分の名前
週末に行った旅行の写真が今日出来た


血液が凍るようだった


分かっていた


分かっていた



それでも


この夢から覚めたくなかった




(黎明は午睡の中)



足は自然と病院へ
面会時間ぎりぎりで
“彼女”の病室に入る



(夜明けを望まず)


管に繋がれた植物の体
その先に
生命維持装置が脈をうっている



(覚めない夢を見る)


コンセントに手をかけ

引き抜いた






(もう目覚めないで)





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