ベクトルJ/七尾きよし
 
手をのばしても届きようのない

知っているぼくは
さらに身をのりだすように手をのばし
つんのめれば
つんのめるほどポケットから
落ちていく
人生を代償として
貯蓄してきた
誇りだとか自信だとか名づけられた
重したち

いつまでもそこにあるのだと言う声
そう
衝動は
誰が言いはじめたかも分からない
言葉によって走り出し

失ってしまったものを埋め合わせることなど
誰にもできやしない

知っているぼくは
さらに息をあらげて手をのばし
誰に遺言を告げることもなく
穴を掘りつづけ愛の歌を唄いつづける
手のひらの
向こうにあるものに向かって
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