パリへの逃げ道/殿岡秀秋
 
東京の郊外住宅地のとある公園のブランコに座っていると、ひとりの娘が走ってくる。顔つきが白く凍っている。「どうしたの」と声をかける。「追われているの」といって振り向いて娘は一瞬のうちに助けを求める期待の表情と、ここで時間をつぶすわけにはいかないという決意の目を見せて、駆けていった。娘が逃げてきた方向を見ると、黒い服の男たちが迫ってくる。ぼくはフランコから降りて娘の後を追う。娘は公園から道路ひとつまたいだ家に入ろうとする。たぶん自分の家なのだろう。「家にはいってはだめだ」とぼくは叫ぶ。娘は背後の声に立ち止まる。「逃げ場がなくなるぞ」ぼくは娘に追いついて、その手をとって走りだす。路地の曲がり角に地下駐車
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