知床/北原春秋
 
知床
疾風怒涛の波が吹き
今日も浪の花が空を飛ぶ
問わず語りの幻と癒しの大地・・・知床

あれは野犬の群れの一匹だったか
薄寒い晩秋の斜里の街角で
確かに奴はいた

妙に存在感のある眼で
俺を見つめていたかと思ったら
突然、うなり声をあげ
牙をむいた一匹の野犬

「お前何しに来た
 知床はぼんやりと観光ついでに
 仕事をしているような
 お前の来るところじゃないぜ
 知床はそんな甘いもんじゃねえし
 都会人面したお前らが
 来るところじゃないんだ」

牙をむいた一匹の野犬は
牙を閉じた
そして
静かに、静かに佇んでいた

ああ、これが
小春日
[次のページ]
戻る   Point(2)