闇/七尾きよし
のっぺりとした暗闇の水面を
一筋の線が ぴいっと走る
ひたひたと音もたてずに
波がゆっくりとひとつ
またひとつ走って
のびやかに肢体を伸ばす女の姿のように
ひろがっていく
繰り返しくりかえし
一筋の線が走り
時が繰り返し
流れていく
闇の記憶
いつの間にか
とらわれてしまった
何も生まれず
何もなくならない
暗闇の世界の情景に
水面を引き裂く一筋の線
右から左へ いや
名も無き方向から
もうひとつの名も無き方向へと
半寸ほどの深さに水面は切り裂かれる
わたしの視線は
ある時は中心にあり
またある時は 遠い辺縁にあり
繰り返される情景に
身を委ね
暗闇の中に埋没していく
快楽に身をまかせるわけでもなく
絶望に嘆きくるしむわけでもなく
ただくりかえされる情景の中で
わたしの存在が消えていく
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