冬に白い靴で/銀猫
咳がひとつ
窓を抜けて
枯草のなかに逃げた
草むらには
どうやら微熱の欠片が
カマキリの卵のように固まって
冬をやり過ごそうとしているらしい
わたしは昨夜見た夢を覚えていない
咳がひとつ
灯りを消した部屋で霧散した
ちいさな日常のなかで
惑いは吸い殻に埋もれ
尽きないスケジュール表で並ぶ記号の羅列を
アラベスク模様のように鑑賞している
わたしは朝までに
今夜の夢を忘れなくてはならない
目覚まし時計の針先には
少しの未来が記されており
逃げ出しそうな
小さなこころを戒める
朝には白い
白い靴を履くのだ
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