うつくしき朝/北乃ゆき
 
わたしの腹の中に巣食う鵺が
くぇぇくぇぇと
毎夜不気味な鳴声をあげます
孤独という名を持つその鵺が鳴くたびに
わたしに潜む自虐への欲望がうずき
ああうずき
くぇぇくぇぇ
くぇぇくぇぇ
手首を切落としてしまいませう
死ぬる事ができませう


ところが
わたしが消える寸前で
しゅるるしゅるると蔦が絡みつくのです
かつて愛した人の面影を持つその蔦は
わたしの世界には不似合な明緑をもつていて
蔦は言うのです
「生きよ」と
蔦は命じるのです
「生きれ」と

そうして朝がくるのです


今夜も
鵺は鳴き
蔦が絡み


そうして朝がくるのです



くぇぇくぇえと
鵺は毎晩鳴くけれど
一方で
わたしは朝のうつくしさを知って
生きています












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