この世の老人/大小島
、地面のくぐもった音が響いている。
僕は老人を何十分も見ている。
ベンチの真正面、30mほどのところには、大きな噴水がある。何分おきかに水を勢いよく空に向って噴き上げる。公園を通り過ぎる多くの人にとって、噴水はただの噴水でしかない。時間が来れば水を吐き出し、その水を循環させ、夏は涼しさと、鳩の水場になり、秋はその水を落ち葉で一杯にし、寒さをより一層、寒々と感じさせる。冬になれば水は一滴も流れず、全てが凍りつく。
しかし、老人の目にとって、噴水はただの噴水ではない。老人の目は、噴水を、究極的に細分化し、分析する。そのため老人の目には、吹き上がる水、落ちてゆく水、水面にぶつかる水の一滴一
[次のページ]
戻る 編 削 Point(1)