或る夜の/馬場 こういち
 
と ずっと
もがいていました
ひとはあの子を
ひとりぼっちといいました
あの子は
ひとりぼっちみたいでした


それだけつたえたくてアタシ
アナタにつたえたくて
ごめんなさい 仕事中に

そうか

そうか ありがとう
あしたの朝には帰るからね
ありがとう


おまわりさんが 泣いていたら
みんな おかしいと思うでしょう
だから わたしは 
泣いてはいけないのです
こんな夜にも
わたしは

わたしは
この少年たちの
酔っぱらってケンカした
この少年たちの
はなしを聞いてやらなければ
いけないのです 


ちょっとそこで待っていなさい
なにか飲みものをもって来るから


おくの給湯室の
わたしは
エラそうな 大きな帽子
金ぴかの 胸のバッジ
それすら
はずしてはいけないのです


二十一時五十三分


署長殿
いま わたしに
一分間
あと一分間だけ
私用の時間を与えてください

こんな夜にも わたしは
わたしは
いけないのですから

あの子が
にっこり笑ったのですから

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