カイト/ベンジャミン
空は何も忘れはしない
それは始めから何も覚えていないからだと
古い本に書いてあった
それは確かに詩人の言葉だと
子供ながらに納得したことは
はっきりと覚えている
冬空にカイトが舞う
描かれた二つの眼が
わたしを見下ろしていた
その記憶はもう
十数年前のものだ
それからたくさんの人が
わたしを置いて空へ昇っていった
つながれたままのわたしは
飛ぶこともできないでいる
そのことに感謝することを
つい忘れてしまう
記憶はだんだんと薄れてゆく
けれど空は何も忘れはしない
それは始めから何も覚えていないからだと
古い本に書いてあったことを
わたしはようやく思い出せた
冬空にカイトが舞う
描かれた二つの眼が
わたしを見下ろしている
それを
わたしはただ
懐かしそうに見上げている
戻る 編 削 Point(5)