恋の瞬間/比呂正紀
饒舌な彼女の隣りで頬に手を当てて頷く 君に恋した
ティーカップの淵をクルクル撫でている細き指先 俺は恋した
「ぽっちゃりとした唇がきらいなの」尖らす唇 君に恋した
「ばかみたい」そっぽを向いた横顔にときめいている 君に恋した
茅ヶ崎の堤防の上の午前二時寄り添ってくる 君に恋した
有り余るけんちん汁を目の前にカレー粉を持つ 君に恋した
いずこへとゆくことよりも共にいる時間が大事 君と恋した
穢れない真白き肌に浮かぶ汗くちづけている 君を愛した
ゆるやかな放物線を描いてた君のすべてを 忘れないから
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