君宛ての手紙/和泉 誠
 
僕はこの話をする時には
いつもこのエピソードを持ち出すよ。
知ってるかな?
ヤマアラシのジレンマ。

真冬、
外敵から身を守るため体中を針で覆われたヤマアラシ。
寒さで凍える二匹が温まろうとその身を寄せ合う。
けれど体中から生えているその針が相手の体に突き刺さる。
痛くてとても近寄れない。
でも、離れると今度は凍えてしまう。
何度も何度も二匹は同じ事を繰り返す。
そして結局、
痛くて耐えられない程近くではなく
寒くて耐えられない程遠くではない距離を見つける。

君の望みはそんな距離だろう?
そんな事とっくに分かってたさ。
でもね、
僕は焦っているんだよ。

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