亀と兎/和泉 誠
のろまの亀さんと
せっかち兎さん
兎さんはぐんぐん走った
亀さんはのったりのったり走った
あっという間に亀さんは見えなくなって
兎さんがただ一人で走っていた
これじゃあ、ただの馬鹿じゃないか
兎さんはくるりと後ろを向いて
またぐんぐん走った
ずっとずっと先に亀さんはいた
のったりのったり走っていた
「亀さん、もうちょっと速く走れよ
これじゃあ競争にならないじゃないか」
「まだまだ勝負はこれからだよ」
「ああそうかい。じゃあな」
兎さんはまた亀さんを置いて
ぐんぐん走っていった
相変わらず亀さんは
のったりのったり走った
二人が競争しようと約束したのは
今からちょうど二十日前だった
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