ねぇ!誰かいますか。/むらさき
 
またね、と手を振った瞬間から
僕たちは歯を別々に磨かなければいけない
僕たちの会話は
いつも中断されっぱなし

そんなときだ
僕が自分の体から
逃げ出したいような衝動にかられるのは

そう感じ始めたのは
ちょうどママとパパが
セックスをしなくなった頃だろう

今日も一人で夜道を歩きながら
僕は自分の体の内側に向かって叫ぶ

ねぇ!誰かいますか。

調子はずれの呼びかけに
心臓まわりの細胞が
パチンと鳴った

僕 探しつづける
つむじから足のつめまで
放りだされた肉片を
孤独な赤いコスモを

ねぇ! 誰かいますか。

返事なんてないことを
知りながら
僕は探しつづける

僕以外の誰かを
孤独な身体の中で

家族って誰だっけ
顔も思い出せない
友達って誰だっけ
名前も思い出せない
恋人って誰だっけ
理由も思い出せない

外の世界は他人だらけだ

ねぇ!誰かいますか。
僕の体の中に
さようならを
もう
言わなくても
いい人が

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