外は無情にも雨/ki
 
薄い壁の向こう側、女の声が聞こえる
甘えたような、よがるような、泣くような声で
女なりの あい をささやく

テレビでは愛の歌が目白押しで
愛してるを連発する
"愛してるなんて言えないけれど君を抱きしめに行く"
そうなんだ
愛してるんだ、僕は、僕は、あいしてるんだよ、

"あいしてる"

字幕に合わせて口ずさむ
四畳半の部屋
斜め45度後ろからスポットライト
頭は熱いのに足先は冷たい、冷え性なんだ僕は。

冷蔵庫には君の置いてった食べかけのアイスクリーム
冬にアイスが美味しいってきっと、部屋があたたかいからだろう?

ストーブも切れた
電話も切れた

テレビだけ付けて
万年床で眠る僕は
凍ったカタツムリ
ちいさな声であいを探している
僕の声が殻の中で弾かれた

"あいしてる"

君の残したアイスを愛す
君の口紅の色が溶けなくて

"外は無情にも雨"

ナメクジが慣れた足取りで窓を這っていく
戻る   Point(0)