忘れ物/和泉 誠
もうだいぶ歩いて来たけれど
どうしてこの道を選んだんだっけ?
きっとこの先に楽園なんてありゃしない
俺にはこの道しか用意されてなかったのかな?
どうして歩き続けるんだろう?
「ここが楽園」 そう言って旗を突き立てれば
拾ってきたもの広げてランチにすれば
どうしてまた歩き出すんだろう?
思い出せるのは
二つに分かれた道 手をつないだ二つの人影
片方は少年に もう片方は少女に用意された道
たどってきた一本道は 後ろから食べられていく
「約束するよ 僕は必ずこの道の先にある楽園に行く」
「どうして私を一緒に連れて行ってくれないの?」
「君は僕の恩人だ この道はすごく危険なんだ
大切な人を僕は傷つけたくない」
「そう 分かったわ」
少女はきつく結んでいた その手をほどく
「さよなら」
振り返りもしなかった
そっか だから俺はこの道を選んだ
そっか だから俺は歩き続けるんだ
そっか だから俺はまた歩き出すんだ
嘘つきになりたくない
ただ それだけのために
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