無防備な女/かおり
「無防備な女」
喘ぎ声が、
女の
喘ぎ声が
いまでも
ときおり 耳 にこだまする。
6畳一間の安アパート。
週末になると
階下の男の部屋には
女がやってきて、
そして、
はじまる。
その頃のわたしは
肉の歓び
よりも
自分の、
ただ、自分自身の
虚無感と哀しみにさいなまれていて
その女の
アパート全体にさえ響き渡るほどの
喘ぎ声を聞くたびに
膝を抱え
耳を塞ぎ
じっと、
ただひたすらに
じっと、じっと、していただけだった。
恋人とも友達ともつかぬ男と
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