ろみじゅり/田代深子
 




あの家は娘が男と死んで
父親は耄け録でなし倅に
譲るつもりのなかった家督を譲り
母親は髪を落として家を離れ隠ったまま
思えば娘は母親似だった
あの家は息子が女と死んで
親夫婦は教会に西の荘園を寄進し
なかよく喪服のまま巡礼へ出た
慰みか先々で貧者病者に施して
棺が黒黴に覆われるまでもどるまい
そういう後日譚
なにはともあれ若いふたりの物語

覚えているのはふたりして
国道脇のサイゼリア深夜に逢い引きを
変装か真っ青なジーンズに紺のパーカー
着慣れず物慣れず眼を泳がせる
こちらは首をひっこめ衝立にはりつく
ふたりは銀座でするように目配せで
マイト
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