ライオン/和泉 誠
威風堂々 彼は荒野を行く
その足音は 大地を揺るがし
その瞳は 燃えるよう
ある者からは 恐れられ
ある者からは 忌み嫌われて
彼は広大な領地を手に入れた
一人の男が無断で入ってくる
怒り狂い 男に襲い掛かった
ところが まるで男は木の葉のように
ゆらゆら揺れて 捕まえることができない
怒れば怒るだけ 彼の威厳は崩れていく
「わかっただろう?君はこうやって死んでいくんだ」
息を切らせて座り込んだ彼に 男は言う
「そんなに強く地面に足を打ちつけては痛いだけだろう?
そんなに眉間にしわを寄せていては疲れてしまうだろう?」
「黙れ!」
彼は叫んだ
「お前は知らないだけだ!
もしも俺の足音が地面を揺るがさなければ
もしも俺の瞳が炎のごとく燃えていなければ
今頃俺は死体になって この荒野に転がっていたんだ!」
男は何も言わずに去っていった
あとになって こっそりとノートを取り出し
それに刻んだ
ある悲しいライオンの詩を
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