事情をしらない猫/炭本 樹宏
 
 事情をしらない猫はあくびする
 歯車のなかでせいかつするぼくは
 くだらないことで悩む
 そんな僕に猫はひざにのって
 あくびする

 事情をしらない猫はえさをねだる
 しがらみのなかでこさえたエサ代を知らず
 当然のようにむさぼりつく
 
 猫は明日の心配などおかまいなしだ
 そんな猫に相談事を話かける
 
 猫は黙って手をなめてくれる
 僕の絶望も苦しさもしらずに
 食べたいときにたべ寝たいときにねる

 幸せを比べても仕方ないけど
 人波に飲まれて日々歩く人生行路
 毎日がサバイバル
 
 事情を知らない猫はそんなこともお構いなしに
 ゴロゴロのどを鳴らして
 僕にあまえてくる

 事情をしらないから
 僕は猫を可愛がるのかもしれない

 今も心配事などかまわずに
 猫は無邪気に寝息をたてて寝ている
 のんきな顏をして無防備に

 それがたまらなくいとおしい
 
 事情をしらないねこ
 それだけで
 僕は救われる



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