事情をしらない猫/炭本 樹宏
事情をしらない猫はあくびする
歯車のなかでせいかつするぼくは
くだらないことで悩む
そんな僕に猫はひざにのって
あくびする
事情をしらない猫はえさをねだる
しがらみのなかでこさえたエサ代を知らず
当然のようにむさぼりつく
猫は明日の心配などおかまいなしだ
そんな猫に相談事を話かける
猫は黙って手をなめてくれる
僕の絶望も苦しさもしらずに
食べたいときにたべ寝たいときにねる
幸せを比べても仕方ないけど
人波に飲まれて日々歩く人生行路
毎日がサバイバル
事情を知らない猫はそんなこともお構いなしに
ゴロゴロのどを鳴らして
僕にあまえてくる
事情をしらないから
僕は猫を可愛がるのかもしれない
今も心配事などかまわずに
猫は無邪気に寝息をたてて寝ている
のんきな顏をして無防備に
それがたまらなくいとおしい
事情をしらないねこ
それだけで
僕は救われる
戻る 編 削 Point(5)