嘘/和泉 誠
 
僕の特別な蝶々
どの図鑑にも載っていない
ただその姿だけを追いかけて
夏休みの最後の日 やっと捕まえた

どこへでも連れて歩いた
ただ彼女の姿を見ているだけで
僕はうれしくなって
気がつくと いつも微笑んでいた

「お前 いいもの持ってるな」
ぞっとするような声
大事なものを守ろうと
彼女が眠る虫かごをその胸に抱え込む

びっくりして目を覚ました彼女は悲鳴をあげる
「助けて!助けて!」
この腕がもぎ取れてしまってもいい
ただ彼女を守ってあげる力が欲しかった

頬が焼けるように熱かった
膝からは真っ赤な血が流れていた

「一体どうしたの その怪我?」
「転んだ」
「おい 大事にしていた蝶々はどうした?」
「逃がした」

自分の部屋に駆け込み 布団に潜り込む
また嗚咽がこみ上げてきた
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