環/アンテ
 
た時のこと
赤子はびっしょりと濡れたまま
身体を震わせて泣いた
人は母親から生まれる
そんな簡単なことを
これっぽっちも判っていなかった
死ぬことが決まっていて
なぜ生まれてくるのだろう
そんな理由や意味
が心のなかから消えて
気がつくと
ぼくは笑っていた
手を強く握りしめて泣く


生まれたこと
そして
いつか
みんな死んでいくこと
なにもかも

煙は上空で拡散して
細切れになり
鳥と混ざって見分けがつかなくなる
あるいは
本当に鳥と化したのかもしれない
火が弱くなり
一人 また一人
背を向けて歩き出す
広場は彼方までつづいていて
ぼくが歩いてきた道は見分けがつかない
あるいは
最初から道などなかったのだろう
空を舞う鳥が
いつか必ず落ちてくるように
ぼくもここへまた帰りつくだろう
ポケットのナイフを確かめて
麻袋を背負って
ぼくは土を踏みしめる
口もとを袖でぬぐって
ぼくは歩き出す




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