郵便配達人、走る/角田寿星
 
んだとヤツは八の字マユゲ
をいっそう下げてまばたきをくり返す。

ヤツの話に興味を示す酔狂はめったにいない。
ここ月面都市は新しいニュースだのやっかいごとだの根も葉もな
い儲け話だのですぐに満タンになってしまう。俺たちはからかい
半分でヤツに話しかける。

受取拒否も宛先不明も一度たりとないとヤツは呟いた。
一度もない?そう。
手紙は受け取ってもらわなきゃ。誰かが誰かにむけて書いたんだ
から。
ちょっと言えないような手段も駆使して捜しだしてぶっとばされ
ようがひっかかれようが殺されそうになろうが「郵便でーす」と
相手が根負けするまでそこに居つづけるんだと。
呆れる俺た
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