郵便配達人、走る/角田寿星
 

三万人を擁する月面都市でヤツがただ一人の郵便配達人だった。
八の字マユゲのひょろひょろした若い男だった。郵便会社配給の
ぴっちりした制服の着たきりスズメで小さすぎる郵便帽が申しわ
けなく頭にのっかってた。宙港ちかくの雑食堂の隅っこでミルク
フレーバーのドリンクをちびちびとやっていた。

月に一度郵便物をのせた貨物船が到着する。
月に2、3通の手紙に葉書にビデオレター。
それを配達するのが一苦労なんだとヤツはこぼした。
いまどき手紙なんて過去の遺物なんだがそれでも届く郵便物。
そんなものの受取人は大抵ワケありの連中でそいつらを捜しだし
てしかも受け取ってもらうのが大変なんだ
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