この街を去ってゆく君へ/ベンジャミン
「引越しするので手伝ってください」
久しぶりの幼馴染からのメールを見て
行くとあらかた荷物は片付いていたのに
ただ
アルバムや卒業文集が
ダンボールのわきに積み上げられていて
それが手付かずのままだった
「ぜんぶ一人でやるつもりだったんだけど」
そいつは肩をすくめながら
アルバムを手にとってぱらぱらとめくっている
僕はそれを覗きこみながら
どうでもない昔話を
口を開けたダンボールの中に詰め込んでいった
「あとは一人でできるから平気」
そいつは自販機で買った
ホットコーヒーを僕にわたしながら
それが人肌程度の温かさだったことが
どうしょうもなく悲しかった
外はすっかり日も暮れて
点々と続く街灯の下
見送るその
動き出したトラックの窓から伸ばされた手が
住み慣れた街に大きくさよならを描いても
手のひらが
僕に向けられていないことに
少しだけ安心しながら
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