視線/岡村明子
 
古い写真
同じ年の子供たちが
いっせいにポーズをとって
こちらを見ている
覗き返す
私と
唯一
目が合わなかった
十歳の私

偏屈な子供
いつもみんなが
ガラスの向こうにいるような気がしていた
光が乱反射して
輪郭のつかめない
たくさんの子供たち
白く覗いている顔が怖くて

だけの絵をひたすらに描いた

影とよく遊んだ
影と重なろうとすると
影が自分からはみだすのが許せなかった
影の輪郭が砂に混じるのも許せなかった
あるとき
影は
直立不動で見つめる私に
大きくバイバイをして
ガラスの向こうへすべりこんでいった
丸裸になった私は
砂場へ駆け出し
砂が私に浸入してくるのを許した

少なくとも私は
天使のような子供
ではなかった
空よりも地面と親しく
白より黒を美しいと感じた
だけどそれは
空の一番底から
もっとも高く
空を崇めることであったのだ

古い写真の中で
私の視線は遠く上のほうを見ている
私だけがそこにいなかった

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