二人の膳/けんご
三つの茶碗が二つになり
よそおう手も男の手になり
食膳に向かって
私は父と向き合って
鍋をつつく
鍋の中から菩薩様が出てきて
食卓にこぼれた汁を布巾で拭ってくれた
父と私は一瞬黙り込んだ
仲間のクリスチャン達が集まってきて忠告する
「霊的姦淫はいけない。
イエスを、イエスを見上げて」
そうでしょう
そうでしょう
母ちゃん
実のところ
あんたはどこに居るんだ?
まだお骨は客間に祀ってあるから
墓の下で姑と喧嘩はしていないでしょう?
穏便に
何事も穏便に
今日も
おおよそ美味しいものを食べているけれど
時に
想い出したように
涙が滲む
はらり
はらり
と涙が出て
恥ずかしいから
きっと片手で拭う
神様
人生は塩味かな
母ちゃんを頼むよ
私のじゃなくて
母ちゃんの涙を拭いてやってくれ
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