ねむれ/狸亭
ねむれ。
胎児のように、ねむるがよい。
せいけつなみなれた風景の、
すこしばかりの変化など気にせずに。
あわれなものだ。
マルチメディヤとかいうものに
おかされてゆく母胎の中では、
ほんとうの安眠などはないだろうけれど。
もうなんどもよみつくされた『浦島太郎』
龍宮城とふるさとの村をいったりきたりするうちに、
ますますぼけて、
どちらがどちらかわからぬけれど。
わかわかしいおとひめの涙や、
あのやわらかい乳房も
いまごろは
太郎の夢をおいながらねむっているだろう。
めざめの時はそんなにとおくない。
つかれきった老いた母胎は、
あたらしいいのちを生むために
きっと くるしむだろうな。
ねむれ、
だけど いまはねむれ。
あたらしい季節の到来まで
ねむれ。
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