輪郭だけが残っている/山田せばすちゃん
帰りついたとき
台所では炊飯器がことことと
もうすぐ炊き上がりの湯気を吹きだしていて
待ちくたびれてこたつでうたた寝していた
君の寝顔を覗き込んだときの
かすかな寝息まじりの笑顔
なのだけれど
たとえばそれは
最近電話出てくれないよねと
何週間ぶりかの喫茶店でそう言った君に
バイト忙しくてさ、なんて
見え透いた嘘をついたときの
テーブルの向こう側の
少しさびしそうな笑顔
なのだけれど
たとえばそれは
三条大橋のたもとで
雪混じりの風が吹く晩
俺、お前といると気持ちが安らぐんだけれど
あの女といると気持ちがわくわくするんだ
だからどうしてもあの女のことを思い切れなくって、なんて
手前勝手なことを一息に言い捨ててから
振り返って見た
前髪に雪のかけらをつけたままの君の
涙を流しながら必死に笑おうとしている
最後の笑顔
なのだけれど
輪郭だけが残っている
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